第1-18-1話:面接の数時間では

テックフォレストは、順調に成長し、新しいメンバーを迎えることになった。
採用担当の一員に任命された佐藤と高橋は、連日、多くの候補者とオンラインで面接を重ねていた。
「スキルや経歴は申し分ないんだけど…」
面接を終えた佐藤は、モニターに映る候補者の履歴書を見ながら、小さく溜息をついた。
高橋も、隣で神妙な顔をしている。
「面接で話した印象は、すごく良かったですよね。
でも、本当に僕たちのチームの雰囲気に合うかどうかは、正直、これだけじゃ分からないです」
スキルは優秀でも、チームの文化に合わなければ、本人にとっても会社にとっても不幸な結果になってしまう。
過去に、そんな苦い経験があった。
限られた時間の中で、相手の「本当の姿」を見抜くことの難しさ。
二人は、採用という、正解のない問いに、頭を悩ませていた。
第1-18-2話:カルチャーフィット予測

佐藤が、次の面接の準備をしていた時だった。
候補者情報が表示されている『ワンチーム』の画面に、見慣れないボタンが追加されていることに気づいた。
【カルチャーフィット予測を実行する】
興味を惹かれてボタンを押すと、AIによる分析が始まった。
システムは、テックフォレストの過去の膨大なチャットログや、共同作業のデータを匿名で解析し、「現在のチームのコミュニケーションスタイル」を算出。
それと、候補者が受けたオンラインの適性検査の結果を照合し始めたのだ。
数分後、画面にレポートが表示された。
『候補者A:スキルフィット 92%|カルチャーフィット 45%』
『予測:個人の技術力は高いですが、チームでの協調性や、自律的な問題解決を重視する現在のチーム文化とは、ミスマッチを起こす可能性があります』
『候補者B:スキルフィット 85%|カルチャーフィット 95%』
『予測:スキルは現時点で若干劣りますが、学習意欲が高く、他者への貢献を厭わない姿勢は、チームに極めて高いレベルでフィットします』
佐藤と高橋は、その的確な分析に息をのんだ。
自分たちが数時間かけても分からなかった「相性」という曖昧なものを、データが見事に可視化してくれたのだ。
第1-18-3話:最高の“仲間”

佐藤と高橋は、経営陣を説得し、『ワンチーム』が最もフィットすると予測した「候補者B」を採用することを決めた。
数週間後。
新しくチームに加わった中田さんは、すぐにチームに溶け込んだ。
彼は、最初は少し戸惑いながらも、分からないことは素直に質問し、自分の得意なことは、積極的に他のメンバーに共有した。
高橋が忙しい時には、黙って雑務を手伝ってくれることもあった。
彼の誠実で、チーム思いな姿勢は、すぐに、テックフォレストの文化そのものになった。
ある日のランチ。
高橋は、新メンバーの中田さんや、他の同僚たちと楽しそうに談笑している。
その光景を眺めながら、佐藤は静かに思う。
(スキルは、入ってからでも教えられる。
でも、文化や価値観は、そう簡単には変えられない)
システムの優しさとは、時に、人間が見誤ってしまう「目に見えない価値」を、静かに教えてくれることなのかもしれない。
テックフォレストは、また一人、最高の仲間を迎えることができた。
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