
この物語『案外、世界は優しさでできている』を読んでくださり、ありがとうございます。
ここでは、物語の背景にある「なぜ、こんなITシステムが生まれたのか?」という、少しだけ壮大な世界観についてお話しさせてください。
実は、この物語に登場するITシステムは、全くの空想の産物というわけではありません。
それは、私たち人類が、何万年もかけて行ってきた「あること」の、一番新しい形なのかもしれないのです。
▼ 人類の歴史は、「弱点」を「発明」で乗り越える物語だった
私たち人類の歴史を振り返ると、それは、自分たちの「弱点」を、様々な「発明」や「システム」で補い続けてきた、壮大な物語と見ることができます。
・狩猟採集の時代
私たちは、牙も爪もない「か弱い生き物」でした。その弱点を、石器や火といった【道具】で補い、生き延びました。
・文明が生まれた時代
社会が大きくなると、個人の「曖昧な記憶」だけでは、物事を正しく管理できなくなりました。そこで、私たちは【文字】を発明し、情報を正確に記録する術を手に入れました。また、感情的な争いを乗り越えるため、【法律】というルールを作りました。
・産業革命の時代
私たちは、自らの「腕力や足の速さの限界」にぶつかりました。その弱点を、蒸気機関などの【機械】で補い、これまでとは比べ物にならない豊かさを生み出しました。
・情報革命の時代
そして現代。私たちは、複雑な計算や、世界中の人々との情報共有を、【コンピュータ】と【インターネット】というシステムで可能にしました。
▼ 最後に残された、私たちの「弱点」
道具、文字、機械、コンピュータ…。
私たちは、様々な発明で、たくさんの弱点を乗り越えてきました。
しかし、現代社会に生きる私たちには、まだ解決できていない、とても厄介な弱点が残っています。
それは、「感情」と「複雑すぎる現実」という壁です。
インターネットは世界を繋ぎましたが、時に、人々の感情的な対立を増幅させてしまいます。
組織の中では、遠慮やプライドといった感情が邪魔をして、本当はうまくいくはずのことが、うまくいかなかったりします。
社会はあまりに複雑になり、たった一人の人間が、その全体を把握し、最適な答えを見つけ出すことは、もう不可能になりました。
▼ “優しいシステム”の役割
この物語に登場する「優しき伴走者」としてのITシステムは、まさに、この最後に残された私たちの弱点を、そっと補うために生まれました。
感情の壁を、客観的なデータで乗り越えさせ、
複雑すぎる現実を、人間が理解できる形に整理してくれる。
それは、人間を支配する冷たい機械ではありません。
私たちが、私たち自身の力で、もっと優しく、もっと賢くなれるように。
そんな願いを込めて作られた、人類史のバトンを受け継いだ、一番新しい「発明」なのです。
この物語が、そんな「少し先の未来」を想像する、一つのきっかけになれば、作者として、これほど嬉しいことはありません。