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1-6:単純作業からの“解放”


第1-6-1話:色あせた“才能”

あれから数ヶ月。

テックフォレストの佐藤のチームは、驚くほど安定した日々を送っていた。

特に、高橋健太は、UIデザインや鈴木さんから引き継いだ保守業務で、着実に成果を上げていた。

だが、マネージャーである佐藤は、最近の高橋の様子に、一抹の寂しさを感じていた。

 

彼は、かつての輝きを少し失っているように見えた。

朝は時間通りに出社し、黙々とキーボードを叩き、定時になれば静かに帰っていく。

完璧な勤務態度だ。

だが、以前のように、目を輝かせながら新しいアイデアを語ったり、楽しそうに同僚と議論したりする姿は見られない。

佐藤は、『ワンチーム』で彼の担当タスクを確認してみて、その理由をすぐに理解した。

 

高橋がこの一ヶ月間、主に担当していたのは「旧システムの保守ログ日次報告」と「スプレッドシートから新DBへの手動データ移行」。

どちらも、正確性が求められる重要な仕事だが、毎日毎日、同じことの繰り返しだ。

彼の持つ優れた分析能力や、創造性を全く必要としない。

 

「高橋くん、最近どう?」

 

佐藤が声をかけると、高橋は覇気のない声で振り返った。

 

「…大丈夫です、佐藤さん。特に問題なく、やってます」

 

その返事に、佐藤は胸が痛んだ。

才能ある社員を、退屈な単純作業で磨り減らしてしまっている。

これもまた、マネジメントの失敗ではないのか。

佐藤は、新たな悩みを抱え込むことになった。

 


第1-6-2話:賢い“働き方改革”

佐藤が、高橋のためにもっとやりがいのある仕事をアサインできないかと思案していた、その日の午後だった。

彼女のPCに、『ワンチーム』から「インサイトレポート」の通知が届いた。

 

『分析レポート:高橋健太様について

・直近30日間の担当タスクのうち、85%が定型的な繰り返し操作で構成されています。

・この業務パターンは、高橋様のスキルプロファイル(創造性・問題解決)に対し、モチベーション低下の高いリスクが予測されます』

 

佐藤は、自分の悩みが的確に言語化されていることに驚いた。

レポートは、さらに続いていた。

 

『提案:これらの定型業務は、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による自動化に適しています。

高橋様の操作ログを元に、自動化のためのドラフトスクリプトを生成しました。

この「業務自動化プロジェクト」を、新しい挑戦として高橋様にご提案してはいかがでしょうか?』

 

佐藤は、思わず「なるほど…」と声をもらした。

単に別の仕事を与えるのではない。

彼自身の退屈な仕事を、「自動化」という技術的な課題解決プロジェクトに昇華させてしまう。

これ以上に、今の高橋に響く提案はないだろう。

 

彼女は、すぐに高橋を呼んだ。

「高橋くん、少し相談があるの。

今やってもらっている日次報告なんだけど、あれ、いっそのこと自動化してみない?

君の力で、その退屈な仕事そのものを、なくしてしまうの」

 


第1-6-3話:“仕事”を創る仕事

「…僕が、この退屈な仕事を、終わらせるためのプロジェクト、ですか?」

 

佐藤から新しいプロジェクトを提案された高橋は、最初、きょとんとしていた。

だが、その意味を理解するにつれて、彼の目に、失われていたはずの輝きがみるみる戻ってきた。

 

「やります!ぜひ、やらせてください!」

 

その日からの高橋は、以前のような活気を取り戻した。

彼は、『ワンチーム』が作ったドラフトスクリプトを元に、どうすればもっと効率的に、もっと安定的に自動化できるかを、夢中になって模索し始めた。

それは、誰かから与えられた作業ではない。

自らの手で、未来の「楽」を創り出す、創造的な仕事だった。

 

一週間後。

高橋の作った自動化プログラムは、完璧に稼働し始めた。

毎朝、彼がしていた報告書の作成は、寸分の狂いもなく自動で生成される。

面倒なデータ移行も、プログラムが深夜のうちに終わらせてくれる。

高橋は、単なる作業者から、その自動化プロセスを管理・改善する「オーナー」へと役割を変えたのだ。

 

そして、その翌週。

 

「佐藤さん、ちょっといいですか」

 

高橋が、興奮した様子で佐藤の元へやってきた。

 

「自動化したレポートのデータを、改めて分析してみたんです。

そしたら、システムのパフォーマンスに、ある一定の周期でボトルネックが生まれていることがわかりました。

これを改善するための、新しい企画を考えてみたんですが…!」

 

その姿を見て、佐藤は確信した。

 

『ワンチーム』が自動化したのは、単なる作業ではなかった。

一人の優秀な社員の「やる気」を、そして、彼が自ら新しい“仕事”を創り出すという「未来」を、見事に解放してみせたのだ。

部下が再び輝きを取り戻したことに、佐藤は心からの温かい喜びを感じていた。

案外、世界は、こんな風に優しさでできているのかもしれない。